飛翔 -Fly-
白。純白。真っ白。雪の色。
普通の人には、綺麗で何の変哲も無い、普通の色だろう。
でもね。
私の周りに、白以外の色はないんだよ。
四方を白という色に囲まれている。
右も左も下も上も。
床も壁も天井も。
何もかもが白だ。
白、一色。
外の世界はこんなにも、「色」に満ちているというのに、私の居る部屋は、世界は、これでもかというぐらい「白」が溢れている。
支配、されている。
そういっても過言ではないくらいに、「白」だけが満ちている。
どうしてこうなったのだろうか?
いや、始めからこうだったのに、「どうして?」も何もないか。
解ってる。判ってる。
私はどうせ此処から出ることは出来ないんだ。
解ってるよ。
お母さんに言われるまでもなく、お父さんに言われるまでもなく、医者に言われるまでもなく。
判ってたよ。
解ってたんだ。
もう何もかもが遅いなんて。
判ってたんだよ。
だから。
だから。
だからこそ────。
私は外に憧れた。
憧れてしまったんだ。
窓から見える、壮大な、静観な、盛大な、寛大な、外の世界に。
憧れたんだ。
普通の人にしてみれば、何の変哲も無い、外の世界。
私にしてみれば、すぐ近くにあるのに、目の前にあるのに、手を伸ばしても、二度と届くことの無い。
外の、世界。
どうすれば、届くんだろう?
そうやって私は、毎日、毎晩、毎時、毎分、毎秒、毎瞬、常に、考えたよ。
そして、この選択をした。してしまった。
いや、するしかなかった。
私は今、屋上へと続く階段を上がっています。
お母さん、お父さん。
我がままな娘でごめんなさい。
無理ばっか言ってごめんなさい。
出来損ないでごめんなさい。
欠陥品でごめんなさい。
泣かせてしまって、ごめんなさい。
本当は愛してくれなくても良かったんだよ?
見捨ててくれて、良かったんだよ?
どうせ私みたいな娘、愛す価値もなかったんだから。
だから私は、出来損ないらしく、欠陥品らしく、人として最も重い罪を、犯すことにします。
最後まで、本当に、ごめんなさい。
私は、遺書を足元に置き、靴を脱いだ。
もう何も思い残すことはない。
後はこの闇の中に堕ちていくだけ。
振り返れば、ほんと短くて、退屈な、でも、充実した人生だった。いや、そうでもないかな。
あー・・・・・・出来ることなら学校に行きたかったかなー。
恋愛も、してみたかったな。
結婚だって、してみたかったよ・・・・。
って、今更そんな事言ったってしょうがないよね。もう、戻れないんだから。
さっさと終わりに、いや、終わらせよう。
ほんの少し苦笑しながら、私は真っ暗な空を飛んだ。
恐怖は、不思議と、なかった。
ありがとう。さようなら。ごめんなさい。