〜祈〜

 

 

 今日は近くの神社へ、お参りに来た。初詣ってやつだ。

 お参りなんてものは神社に金を捨てに来ているようなものだと、今まで来なかったし、今年も来るつもりなんてのは全くなかった。

 「初詣だよ、みぃくん! 人が沢山だよ!」

 大きくも小さくもない神社にしては、確かに人は多い。

 人ごみは苦手だ。というのも、例年初詣に来なかった理由の一つだ。

 「ねえねえ、おみくじもやってこうよ!」

 そんな僕が何故この場にいるのかというと・・・・・。

 「あ。あとさあとさっ! さっき来る途中に硝子細工のお店見つけたんだけど、そこにも寄ってこうねっ!」

 まぁ、察しの良いキミなら当に気付いているんだろうけど、さきほどからはしゃぎっぱなしのこの少女に要因の一つ、というか主な要因がこいつだ。

 

 

 朝、幼馴染特有のスキルで──窓からどうやって鍵を開けたのかは知らないけれど。・・・・・知りたくもないけれど──入ってきたと思ったら、安らかな眠りについていた、、、、、僕に対して、腹部──おい、腹部だぜ?──に容赦なくつま先を渾身の力──要は全力──で埋めてきた少女──鳴織晴歌なおりはるか──は、ベッドの上でのた打ち回っていた僕に満面の笑顔、まるで向日葵のような、そんな笑顔──こんな起こし方でなかったら──清々しい目覚めを感じることが出来たであろう笑顔で。

 「あけおめ! ことよろ! でさでさっ、初詣っ! 初詣に行こっ!」

 ・・・・・・・・・第一声がそれかよ過激派。

 しかも、『明けましておめでとうございます』を『あけおめ』なんて略すな外道。同様、『今年もよろしくおねがいします』を『ことよろ』なんて略すな邪道。新年の挨拶ぐらいちゃんとしようぜ日本人。

 「嫌だ」

 再び掛け布団を頭から被った僕は、安らかな眠りを獲得したのであった。チャンチャン。・・・・・・・・・・・なーんて終わり方はしなかった。そんな終わり方だったら僕は泣いて喜ぶだろう。その場で喉を掻っ切ってもいい。

 事実。こいつは僕の掛け布団をバッと剥いだ。それを奪還。剥ぐ。奪還。剥ぐ。奪還。剥ぐ。奪還。剥ぐ。奪還。・・・・・シ〜ン。

 何度か繰り返すと、諦めたのか、僕の部屋から晴歌の気配は消えていた。

 油断した僕は、布団の中、安らかな眠りにつこうとした。否、ついたんだ。だがそれは、たった数分の安らぎに過ぎなかった。

 再び晴歌は、我が部屋へ舞い降りた。そして、スヤスヤと安眠を貪る僕の布団をまたしても、剥いだ。

 刹那。

 あろうことか、晴歌は、僕に、氷の粒を、ドバドバと、かけて、きたので、あった。

 

 ・・・・・。

 

 ・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・・・・。回想、終了。

 

 

 そうして僕は否応なく、初詣に来ることに、なったのであった。

 水ならまだしも、氷。氷水ならまだしも、氷だけ。痛い痛い・・・・。

 「──────ってさぁ。もしもーし? 聞いてるー? や、別に聞いてなくてもいいんだけどね。こうしてみぃくんと初詣に来ているという事実だけで、わたし、空飛べそうだし。あ、そういえばみぃくんと初詣来るの初めてだよねっ。うわっうわっ、初初詣だよ〜!」

 先ほどからずっと喋りっぱなしだというのに、一向に晴歌の口は休まらない。

 「あー・・・・・・・・確か小さい頃来なかったっけ?」

 「わっわわっ、みぃくんが喋った」

 僕はパントマイマーか。

 「なーんてボケは置いといて」

 しかもボケかよ。

 「あれ? そうだったっけ?」

 「そうだよ。僕の記憶力なめんな」

 「や、だから疑うんじゃない」

 ・・・・・・・・・こいつ根っからのサドだな。実に人をなぶるのに長けていやがる。

 「あっ、出店があるよみぃくん! 林檎飴だよっ!」

 うわっ、こいつ意味の無い前フリを自分で無に返しやがった。

 というか、なんですか。何故に物欲しそうな顔でこっちを見る。

 「みぃくん・・・・・買って?」

 「駄目」

 「えぇー!! なんでよっ、いいじゃない林檎飴ぐらい!」

 「なんで僕が買わないといけないんだよ」

 「むぅ・・・・・・・けち」

 「たかる方がよっぽどタチ悪いわ」

 「けちー」

 「うるさい。とっとと行くぞ」

 このままでは何時までもお参りをすることができない。

 不本意ながらでも、来た以上はやはり参るべきだろう。

 歩き出す。

 「わわっ、待ってよっ」

 後をひょこひょこついてくる晴歌は、まるで子犬のようだったった。

 

 

 

 ガランガラン。

 鐘を鳴らし、賽銭を放った。勿論、五円玉九枚。

 「わわっ、けちー」

 「うるさい。黙って祈れ」

 「ちなみに私は百円だよっ」

 「後がつっかえてるぞ」

 「わわっ、ほんとだっ」

 

 眼を瞑り。

 

 ・・・・・。

 

 ・・・・・・。

 

 ・・・・・・・。

 

 ・・・・・・・・眼を、開けた。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・うんっ、これでよしっと」

 「なんて祈ったんだ?」

 「えっとね・・・・」

 もったいぶるように言葉を溜める。

 

 「みぃくんと、何時までも一緒にいられますようにって!」

 

 えへへ〜、と満面の笑顔。

 向日葵のような。

 清々しいほど、無垢な。

 なんのかげりも見られない。

 鏡のような。

 まぶしすぎる。

 その、笑顔が────

 

 

 

 「・・・・・・・・・・んじゃぁ、林檎飴でも食いながら帰りますか」

 

 

 

 僕がなにを祈ったのか。

 

 それは、僕のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

-Fin-


登場人物:
 廻璃まわり水々みなみ
 鳴織なおり晴歌はるか