〜将来考察〜
白一色に覆われた部屋に、少年と少女が向かい合って静かに座っている。
少女は、 目の前にある紅茶には手をつけずに、にこにこと笑っていた。
太陽がよく似合いそうで、顔は可愛い方と言えるだろう。どことなく、雰囲気がほにゃほにゃしている。
紫髪紫眼の少年も、紅茶には手をつけず、ぼーっと虚空を見つめている。
二人が来たときテーブルの上には、紅茶セットと一枚の紙切れが置いてあった。
紙切れには達筆な字で今回の話題であろう問いが書かれていた。
恐らく、普段は居るはずの男が書いたものだろう。
「はぁ・・・・」
少年は、疲れたように溜息をもらす。
「困りましたねー」
少女が言う。
「まったくだよ。こんな紙切れ一枚置いてさ」
「それで・・・・あ、まず自己紹介でもしましょうか?」
二人は初対面だ。それよりも、此処で男以外の人間に遇った事自体初めてだった。
少年は肯き、自己紹介をした。
それが終わると今度は少女が同じように自己紹介をし、互いに色々な質問を交わした。
「はあ・・・。それじゃあ、今まであの人以外に人に遇ったことないんですかー」
「まぁね。キミもそう?」
「はい〜。・・・・・・それで、どうします?」
少女が問う。
「とりあえず、お題があるわけだから、何か話さないと・・・ね」
「そうですね〜。えっと・・・」
少女は徐に紙を手に取り、「こほん」と一つ咳払いをした。
そして。
「『キミ達には、将来の夢があるかな?』」
少女は少し声を低くして、そう言った。
「・・・・・・それは、男のモノマネ?」
「似てませんでした?」
少年はしばし逡巡し、そして口を開く。
「・・・・・・・・・・・それで、キミの将来の夢はなに?」
「むむぅ・・・・・。その反応は酷いなぁ〜。私なりに結構頑張ったんだけどな〜。
・・・・・・・・・将来の夢・・・夢、ですか・・・・・むぅ〜・・・・・」
徐々に声が小さくなり、最後にはブツブツと何か言っているのが解る程度の声量で呟きながら、少女は考え込む。
「・・・・・」
その間少年は黙って紅茶を啜る。
「─────あ!」
突如、少女が大きな声をあげた。考えがまとまったのだろう。
「あ、あーあー。あれ、あれに成りたいなー」
「・・・・あれって?」
「えっとね・・・」
そこで少女は頬を朱に染め、俯きかげんに呟いた。
「可愛い、お嫁さん」
「・・・・・・・・・お嫁さん?」
確認するように問う、少年。少女は首を横に振り繰り返し言った。
「可愛いお嫁さん」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
静寂が、部屋を、支配した。
「────────────ん?」
その静寂を破ったのは、少年だった。
「この紙、二枚重ねになってるよ?」
少女に紙を渡す。
「あ。ほんとだ・・・・・。なになに・・・・『ああ。言っておくけど成りたいモノと混同させないでくれよ? そんなモノに興味はないのだからね』だって・・・・・」
「・・・・・・どうやらやり直しのようだね」
「・・・・・・そみたいだね」
「それで、キミの夢≠ヘ?」
「ん、ん〜・・・・・・・・・・・・判らない、や」
「・・・・・・・ま、そういうものだよね」
「キミは?」
「僕も同じだよ」
「そだよね。うん。この世界にちゃんとした夢≠持ったヒトなんて・・・・・・」
「そうそういない。だって今の世界には、大抵の、平凡な夢≠ネら叶えさせてくれるだけのモノが、溢れかえっているんだから」
「それに、自分で自分の事を理解できるヒトも、いないもんね」
「なにより、将来≠ヘ自然とやってくるものだ。どんなに大層な夢≠持ったところで、そんなものは無意味だ」
「ん・・・・・・私はそんな風には思ってないかな」
「冗談。僕もそうだよ」