〜かごめかごめ〜

 

 

────か〜ごめ かごめ 

      か〜ごのなかのと〜りぃは

      い〜つ い〜つ で〜や〜る

      夜〜明けの 晩に

      つ〜るとか〜めがすぅべった

      後ろの正面 だあれ

 

 白い部屋で男と少年がテーブルを挟んで、向かい合うように座っている。

 黒髪赤眼の少年は、いかにも退屈で仕方が無いという風な瞳で、勧められた紅茶を優雅に啜っている。

 方や男は、足を組み、まるで魔王のようななりでこれまた優雅に紅茶を啜っている。

 紅茶を置き、男が静かに口を開いた。

「・・・・・キミは、『かごめかごめ』という童謡を知っているかな?」

 その唐突な問いに、紅茶を置かざるをえなくなった少年は、怪訝そうな表情(かお)で答えた。

「知っているが・・・・それが?」

「ふむ。ならその歌に幾つかの説、いや、解釈があるのも知っているね?」

「ああ。あの一時期話題になったあれだろ? 流産とかの」

「さすが、博識だね」

「つまらない人間だからな」

 少年は自虐的に呟いた。

「で、それがなんだ?」

「キミ自身はあの歌をどう考えているのかと思ってね」

 少年はしばし考えるように瞳を閉じ、額に指を当てる。

 そして、答えた。

「・・・・・・・・判らないね、昔の人間が考えた歌なんて。文献も残っていないわけだからな。判りようが、無い」

「ふむ。それはそうだが・・・・。だからといって思考を放棄していたら、ヒトとして進歩しないよ?」

 男にしては珍しい、嘲るような口調。

「貴様にそういう風に言われたくは無いが、まぁ、それもそうか。
 ならば、俺の意見を言おうか」

「どうぞ」

「多くの人間はこの童謡を意味が判らないという理由だけで───いや、そうじゃないのかもしれないが───意味づけしようとしているが、案外昔の人間はただ、意味が判らないという不思議な感じが面白かった、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、から、広まったんじゃないかと俺は思うな。

 そして恐らく、作った人間もさほど意味は考えていなかったんだと思う。たとえ意味があったとしても、今となっては判らずじまいなんだし、このまま特に意味づけしないで、子供の遊び歌、、、、、、程度の認識を持っていれば、それでいいだろう。危険でもないしな」

 時折、紅茶を啜りながら話した少年は、そう締め括ると、男に「これでいいだろ?」的な視線を向けた。

 男は組んでいた腕をほどき、静かに紅茶へと手を伸ばした。

 湯気の立つ紅茶の香りをしばらく優雅にたのしんだ男は、それを半分くらいまで喉に流し込み、口を開いた。

「さすがキミだね。どんな風に言っていても、ちゃんとした自己の意見を持っている。今の人間、特にニホン人には欠けている美点だよ、それは。まぁ、此処に来るのは大抵そういう者ばかりだから、さほど特別でもないがね。

 ふむ。確かに意味のないものを生み出すのは人間にしか出来ない能力かもしれないが、これをそうだと断言するのは些かどうかと思うが?」

 男の問いに少年は答える。

「確かにそうかもしれないが、それは他の解釈でも言える事だろう?

 結局は仮説に過ぎないんだよ。文献が無い限りな」

「ああ、そうだね」