4.

 二十五日の正午。

 俺は学校にいた。

 学校の、怪談部旧部室。

 かつての開かずの部屋。

 今日は沙花は一緒ではなく、一人でこの部屋に来た。

 扉を開けて、中へ。

 カーテンを閉め切った、薄暗い部屋。

 少し埃っぽい。

 そのうち大掃除でもしよう。

 手探りで電気のスイッチをパチリ。

 パッパッと二度点滅した後に、やっと電気がついた。

 白光の元、机に優雅に座る姿を見た。

 セーラー服だが、今の制服ではなく、旧タイプの制服。

 膝より少し上のスカート。

 おかっぱに近い髪型で、クールな視線。

 沙花に似た雰囲気の少女。

 だが、その実態は怪異。

 元七不思議の三番目『開かずの部屋』の主であり、元七不思議にして現在は番外の『トイレの花子さん』にして、現七不思議の三番目『ヤミコさん』。

 けれど、彼女も元から怪異であったわけではない。

 簪(かんざし)八(や)巫女(みこ)という、一人の怪談好きな女子高生。

 怪談部の大先輩だ。

 何故、怪異に成ったのかは詳しくは知らないが、七不思議に関することだけは確か。

 それだけ聞けた。否、忠告された。『七不思議には関わるな。あれは危険だ』と。

 それ以外の事には、聞いても教えてなどくれないし、そもそも聞いてはいけない事なのだろうと、俺はそう思っている。

 「お久しぶりです、ヤミコさん」

 流石の俺も、この方にタメ口を利くだけの勇気は持ち合わせてなどいない。

 「おやおや、確かに、お久しぶりだ」

 「目が据わってますよ」

 睨まれた。

 めっちゃ怖い。

 「サンタの坊やとゲームしたんだって?」

 「もう知ってるんですね」

 「花子が教えてくれた」

 花子ちゃん。元『トイレの花子さん』だった少女。

 ヤミコさんが現れるまでは、『トイレ』という場の支配者であったらしいが、彼女にその席と場を奪われ、今では『学校』と『学校』を行き来する浮遊霊のような自縛霊のような在り方をしている。

 当然、ヤミコさんには頭が上がらず。それをもう何十年も続けている彼女に、合唱。

 「で、だ。とりあえず出せ、あれを」

 「あれ?」

 「昨日貰った石のことだよ」

 あぁ、あれか。

 一応肌身離さず持ってはいるが。

 ……睨みが怖い。

 仕方なく俺は、首からかけたネックレスを外し、ヤミコさんに渡した。

 「……ふむ」

 手の上で、石をつついたりして転がしている。

 「サンタが───だから──えば────」

 しばらく、そうして転がしながら、何かぶつくさ呟いていたが言及はしなかった。

 保身のため、保身のため。

 「ほれ、返すぞ」

 再び俺の首へ。

 「それで、なにか用があったんじゃないか?」

 言われて思い出した。

 「あぁ、いえ、ケーキを持ってきたんです。クリスマスですし」

 「……」

 あれ、無反応。

 「……軌修、お前という奴は──」

 なんかまずい事、したか?

 甘いもの苦手とか?

 いやいやいや、それは随分と笑えない冗談ですよ。

 「最っ高の後輩だ!」

 肩を凄い勢いで掴まれ、そう言われた。

 「そりゃ……どうも」

 

 その後、沙花たちも加わり、軽いクリスマスパーティを行った。

 うん、こういうのも、悪くない。

 

 

 

 

END

 

 

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