Christmas story of transient happiness.

 

 

 

 

 「な……! 馬鹿な、そんなっ! ……ヒィッ! 命だけは!!」

 赤い絨毯が真紅に染まっていた。

 尻餅をつき、泣いて懇願するは小太りの男。

 そしてその傍らには小太りの男へと銃を突きつける黒いコートの男がいた。

 その男は銃を突きつけながら言った。

 「……フン、地に堕ちたな。昔は世界的犯罪組織クライマーズを率いる首領だった癖に、隠居して経済などに手を出すから。政府が黙っていられなくなったという事だ」

 「頼む! 見逃してくれ、金ははずむ! そこの金庫に入っている金を全てやる! だから、命だけはっ!」

 そういうと小太りの男は握っていた金庫の鍵を男のほうへと投げた。

 「そうか。頂けるのならば頂いておこう」

 男は鍵を蹴り上げ、空中でキャッチ。

 そのまま小太りの男に背を向ける形で金庫へと歩み寄った。

 ……チャキッ。

 「馬鹿め! わしの命も、わしの金も、貴様にはやらんわ! 死ねぇっ!!」

 小太りの男は突如、懐から銃を取り出し、放つ。

 

 ……パァン!

 

 乾いた音が鳴り響き、空薬莢がカラン、と床に転がった。

 独特の、硝煙の臭いが漂う。

 「ぐ……馬鹿、な……!」

 ドサリ、と小太りの男は倒れた。

 彼を中心として血溜りが広がっていく。

 「……お前はドラマの悪役か何かか? こっちを油断させといて撃とうなんて、三流だな」

 男の着ているコートの左脇の辺りから硝煙が漂っていた。

 「俺のコートに穴が空いてしまった。どうしてくれるんだ。……まぁ、この金で弁償してもらうとするか」

 そう言うと男は金庫を開け始めた。

 

 

 

 

 男は車に乗っていた。

 無論、逃走の為だ。

 男は車をほぼフルスロットルで走らせる。

 その男が辿り着いたのは、郊外にある古びた宿屋だった。しかしそこはただの宿屋ではない。

 秘密裏に暗殺者組合アサシンギルドを開いている宿屋だった。

 「……ああ、君か。フム。流石に手際が良いね。はいよ、回収した金は頂きます。んで、これが報酬ね」

 男が奪ってきた金庫の金の六割程度が男へと返却された。これが今回の報酬だった。

 「それにしても、政府から舞い込む様な高ランクの仕事をよくもまぁ、当然の様にこなすね。本当、凄いよ」

 男は世辞を適当に聞き流し、宿を出た。

 外に出ると、何時の間にか凍てつく雨が降り始めていた。

 だが、車は組合からの借り物の為、歩いて帰るしかなかった。

 男は空を見上げると雨など気にせず、すぐに歩き出す。

 

 

 

 

 男が大通りへと出ると、大きなクリスマスツリーが目に飛び込んできた。

 思わず歩みを止める。

 周囲を見渡せば様々なクリスマス・イルミネーションと景気の良いクリスマス・ソングがクリスマスの到来を告げている。

 が、雨で人々が殆どいないせいか、クリスマスツリーもクリスマス・イルミネーションもクリスマス・ソングも、全てが心なしか寂しげだった。

 「……クリスマス、か。早いな」

 男は誰にともなく一人呟き、また歩き出す。

 そして、大通りを更に進み、宿屋とは反対側の郊外へと出る。

 男の住居はその郊外の路地裏にあるのだ。

 男は人気のない路地裏を進み、角を曲がる。

 するとギョッ、として立ち止まった。

 行き止まりの路地に少女の姿が見える。

 その少女は白いワンピースにサンダルと言う、なんとも奇妙ないでたちだった。

 (……可笑しい。何だあれは? 今は十二月。あんな夏物の服装でこの時間に少女が一人路地裏にいる訳がない)

 男は自分の目がどうかしてしまったのかと思い、目をニ、三度こする。が、少女の姿は消えない。

 (……馬鹿か!?)

 男はそれが現実であることを認識すると、全力で駆け出し、少女へと声をかける。

 「おい! そこで何をしている!?」

 すると少女は振り向き「子猫ちゃんたちが……」と一言。すぐさま事切れて―――倒れた。

 「!?」

 男は内心慌てて更に近づく。

 すると、倒れた少女の傍らにはダンボールに入れられて濡れ鼠ならぬ濡れ猫になっている三匹の子猫がおり、ナーナー、と気の抜けるような泣き声をあげていた。

 男は猫に一瞥をくれ、少女の体を抱き起こす。

 そして熱を測ろうとして手が塞がっている事に気が付き、仕方なく自らの額を少女の額に重ねた。

 「熱い……!」

 男はすぐにコートを脱ぎ、それで少女を包むと少女を抱いたまま全力で駆け出した。

 

 

 

 

 「……っ、ン」

 少女が目覚めると、そこは小綺麗な一室だった。

 辺りを見回す……が誰もいない。

 しかし自分はベットの中で柔らかな羽毛布団に包まれており、額には微かに湿ったタオルがあった。

 ボーッ、としつつもベットから降りると、ヒヤッ、とした床の冷たさが全身を駆け巡り、少女は思わず目をつぶった。

 それと同時に脳が覚醒し、少女はここが夢の中でも、ましてやお空の向こうでもない事に気付く。

 「私、死んで……ない?」

 その事に気が付いた少女は辺りを見回したが、先程と同じく誰もいない小綺麗な部屋のままであった。

 少女は足の冷たさを我慢して目に入ったドアをゆっくりと開けた。

 ドアの向こうの部屋はダイニング・キッチンであるようで、木製の食卓とキッチンが目に入った。

 ドアを閉め、再度辺りを見回すと、ソファがあることに気付いた。

 そのソファにはコートを布団代わりにして眠る、若い男の姿があった。

 少女は男を起こす事のないように、ソロリ、ソローリ、と忍び足で歩く。

 そしてそのまま、玄関と思わしき扉へと進む。

 そこには少女が履いていたサンダルもあり、それを履き、扉のノブに手をかけた瞬間。

 「おい。病み上がりの文無しの分際で、何処へ行く」

 と声がしたものだから少女は固まった。

 恐る恐る後ろを振り向くと―――。

 ソファで眠っていた筈の男が起きていた。

 少女はガチガチに固まり、声も出ない。

 しかし男はそれに気が付かないようにソファから身を起こし、少女へと近づいて……ビシッ!!

 「きゃっ!」

 「質問に答えろ。何処へ行くつもりなんだ?」

 ……デコピンを喰らわしていた。

 

 

 

 「帰る所が無い!?」

 「ふん、ほーはほぉ」

 男の「何処へ行くつもりだ」と言う問いに、少女は至極当然の様にあっけらかんと「行く所なんてないよ? 帰る所だって無い」と答えたのだった。

 そして今、その少女は男の家で焼きたてのトーストを頬張っていた。

 「文無し、宿無しか……では何故出て行こうと?」

 「ふぁっふぇ、ふぇいふぁふはへはふふぁふぁっふぁし……」

 「……何言ってるか分からん。食べ切ってから話せ」

 男はコーヒーの入ったカップを片手に少女が食べ終わるのを待つ。

 「……ぷはぁ。あー美味しかった。ご馳走様っ!」

 「さっきの話については?」

 「ああ、さっきのね? それは……だって、迷惑かけたくなかったし……」

 「礼を言う気は無かったんだな?」

 男のジトッ、として視線に、少女は慌てて頭を下げる。

 男はそれを見て「まぁいい……」と切り出した。

 「それで、これからどうするつもりなんだ?」

 「んー、分かんない。行く所も、働き口もないしねー。いっその事、ここに住まわしてくんない?」

 「……いいぞ」

 しばしの沈黙……。

 その沈黙を少女が素っ頓狂な声で破った。

 「えぇっ!? いいの? 冗談のつもりだったのに……ってまさか、えっちぃ事目的じゃないよね?」

 「馬鹿か、そんな筈ないだろう」

 男が呆れながら言うと、少女は深追いしてきた。

 「えー、でもぉ、若い男が私みたいな美少女と同棲するって事はぁ……」

 「同居だ、馬鹿」

 男が溜息を出しながらそう言うと、少女は笑いながら「あはは☆ ごめんごめん」と言った。

 「別にこの家に住んでいるのは俺だけだからな」

 そう言うと男はソファーの方向へ指を指した。

 「それにあの猫どもの事もあるし……」

 「ほえ!?」

 少女が男の指差した方向を見ると、男が先程まで寝ていたソファーから三匹の子猫が這い出してきていた。

 「え……、あれって、あの、子猫ちゃん達!?」

 「俺が寝ているところに忍び込んできたぞ。全く、人を何だと思ってるんだ」

 少女が笑いながら「あはは☆ 絶対に行火代わりだね」と言うと、男は苦い顔をした。

 そんな男の顔を見ていた少女は思わず呟いた。

 「それにしても―――いい人だね、君」

 「いい人? 俺がか? ……馬鹿を言っちゃいけない。俺なんかがいい人だったら世界中いい人だらけだ」

 「いいよいいよ。そんなに自分を卑下しなくても。私がいい人って言ったらいい人なんだよ」

 「……強引な奴だな」

 少女は馴染んでいた。それは少女には至極当然の事だった。

 男も不快ではなかった。まぁ、不快だったら男が少女に同居を許す事など無かったのだが。

 そんな二人の奇妙な共同生活が始まった。

 

 

 しかし、その二人の共同生活を影から見ている者がいた。

 「―――フハ、フハハ、フハハハハハハ……! ワタクシの大事な物を奪った罪。その命で償ってもらいましょうか……!」

 

 

 

 

 「駄目だな……お前」

 「えへへ☆」

 「笑い事じゃないぞ」

 少女の家事能力はゼロに等しかった。

 料理は出来ない。皿を洗えば皿を割る。洗濯すれば洗剤の量を間違って服に洗剤の残りカスを残してしまうし、干す時もハンガーに衣服をかけるのが下手なせいで地面に落としてばかりだった。

 (……役立たず、か)

 「あっ、君、今、私のこと役立たずだって思ったでしょ!?」

 (おまけに何だか知らんが下らない事に対しては鋭い)

 「ハァ……後始末は俺がやる。お前は買出しにでも言ってこい」

 「やったぁ〜! 今日は私の好きなものだぁ! では、行ってきま〜す!」

 少女はスキップしながら出て行った。

 それを見送った男は渋々ながら後始末をする。

 「……ふぅ。何故か、憎めないんだ」

 そんな呟きが漏れる。

 すると突然、バターン!、と大きな音を出して玄関扉が開いた。立っているのは息を切らせた少女だ。

 「ど、どうかしたか?」

 男が心配して声をかけた。すると少女は待ってました、とばかりに口を開く。

 「今日、クリスマス・イブじゃん!」

 「……だから?」

 男には少女がこれから言うであろう事柄が予想できていたが、敢えて疑問の声をあげる。

 「だーかーらー、クリスマスデート、しよっ!」

 「駄目だ」

 ピシャリと跳ね除ける。

 「えぇ〜!? 何でぇ〜!? 私みたいな美少女が……」

 「駄目なものは駄目だ」

 「い、いぢわるぅ〜」

 少女が涙目で訴えるが、男の方は完全無視を決め込んでいる。

 「う、うぅ〜」

 少女はいじけてしまった様だ。

 床に人差し指で渦巻きを描いていじけている。

 

 

 ……十分後。

 

 少女は未だにいじけていた。

 「……ハァ。仕方ないな。いいぞ」

 男が妥協して許可すると、少女は突然、いじけモードから復帰した。

 「やったー! ありがとー! せんきゅー! やっほーい!」

 「今泣いたカラスが何とやら……だな」

 

 

 

 

 男は黒いコート。少女はワンピースの上に、男に買って貰った白いジャンパーと言ういでたちの上、一つのマフラーを二人で巻くカップル巻きでクリスマスデートは開始した。

 街は既に闇夜に染まり、クリスマス・ソングやクリスマス・イルミネーションと共に、複数のカップルを見ることが出来る。

 そんな街並みを見つつ、二人は歩く。

 「なぁ、このマフラー邪魔で歩きにくいんだが?」

 「文句言わないの!」

 「しかし、背の高さがだいぶ違うし……俺が前に進んだらお前の首が絞まりかねんぞ?」

 「いいの! って言うか、私より前に進まないで、足並みそろえてよ!」

 「……はいはい」

 そんな会話をしつつ、二人は街並みを進む。

 その途中、大通りで男が言った。

 「クリスマスだし……何か買おうか? 何でも良いぞ?」

 しかし少女は首を横に振る。

 「今日は二十四日でしょ!? サンタさんは二十五日の深夜にプレゼントをくれるもの! だから今は駄目なの!」

 「……はいはい」

 何故か少女には一種のポリシーがあり、それ故に明日にならなければプレゼントは受け取れないという。

 (……阿呆らし)

 「あー! 今、私の事、阿呆だと思ったでしょー!?」

 (……相変わらず鋭いな)

 クリスマスデートとは言っても二人は相変わらずだった。

 

 

 

 軽いディナーを摂った二人は少女の案内でクリスマスツリーの良く見える、かつ、人の居ない穴場へと歩を進める。

 そこは、はるか昔に人々の記憶の中から忘れ去られた廃ビルだった。

 「よく、こんな場所を知っていたな」

 「えへへ☆ この街をずーっと、探索してたからね」

 確かにここからだと町全体が見回せ、ツリーが真正面にしっかりと見える。

 「何をやっても駄目なお前に、こんな才能があったなんてな」

 「ひっど〜い! 素直に褒められないのぉ〜!?」

 少女は怒ってむくれたが、男は微笑で返す。

 しばし二人で夜景を楽しんでいると、空から何か、ふわふわとした白い物が降ってきた。

 「あー、雪!」

 それは雪だった。

 思わず空を見上げ、見とれる二人。

 「……二人でクリスマスを過ごすってのも……悪くは無いな」

 男がボソリ、と呟いたその時。

 「見つけたっ!」

 「殺っちまえ!!」

 廃ビルの屋上へと二人のスーツ姿の男達が現れた。手には銃を持っている。

 「チッ! こんな時に、この前の復讐か!?」

 男が懐から銃を取り出すより早く、スーツ姿の男達は銃の引き金に指をかける。

 「あっ、危ないっ!!」

 

 パァン!

 

 乾いた音がした。

 マフラーが外れて、浅く降り積もった雪の上に落ちる。

 男は少女に突き飛ばされ、後退し、弾丸を避けた。だが、少女は……。

 

 スローモーションの様に、少女の体がゆっくりと崩れていく。

 

 ……ズシャ、と鈍い音をたてて少女の体が崩れ去る。

 

「!!」

 唖然とする二人の男達を前に、男は銃の引き金を躊躇い無く引く。

 

 パン、パァン!

 

 二つの銃弾はそれぞれを撃ち抜き、二人の男達は人形の様に階段を転げ落ちていった。

 標的を正確無比に撃ち抜いた男の目は、少女へと向けられた。

 

 血溜まりの中に、少女が倒れている。

 

 信じられないが、目の前で、自分の目の前で、何の罪も無い少女が撃たれたのだ。

 男は血相を変えて、駆け寄り、膝をついて抱き上げる。

 力ない声で少女が言葉を発する。

 「えへへ……私、撃たれちゃった……みたい」

 「馬鹿、喋るな!!」

 「ううん、もう……いいの。私……死ぬ……もん」

 「死ぬなんて、死ぬなんて言うな!」

 男の絶叫を無視するかのように血は流れ続ける。

 「クソッ! なんで、なんで血が止まらないんだ!!」

 止血を施すも、少女の体からは依然、血が流れ続けていた。

 「どうすれば、どうすればいいんだ!?」

 「もう……どうしようもない……んだよ」

 「クソッ! クソォッ……! ク、ソォ……うっうっ」

 男の目から涙が溢れ出す。

 それを見た少女が、母親が子供に言い諭す様に優しく言葉をかける。

 「そんなに、悲しまないでよ。今まで通りの一人……暮らしに……戻る……だけ、でしょ?」

 「馬鹿言うな! 俺にはお前が必要なんだ! 暮らせば暮らすほど、お前に惹かれて、愛しく思って……! お前は俺にとっての、生まれて初めての、大切な、大切な人なんだ!!」

 少女の瞳に、涙が宿った。

 「嘘……。そんな事、一度も言ってくれなかったじゃない。私なんて、君には邪魔だと思われてると思ってたのに……」

 「そんな筈ない! 例え、役立たずでも、ドジでもっ……、俺にはお前が必要なんだよっ!!」

 「え、へへ……嬉しい。君にそう言って貰えて、嬉しいよぉ……。けど、なんで涙が出るの? 嬉しいはずなのに……」

 「嬉し泣き、だろ?」

 そう言いながら少女の涙を拭ってやる。

 すると少女が何か思いついたかの様に口を開いた。

 「ねぇ、死ぬ前に……クリスマスプレゼント……欲しいな」

 「何、何が欲しいんだ!? 何でも、何でも言ってみろ」

 すると少女は頬を紅く染めて一言。

 「キスが……君とのキスが……欲しい」

 「……分かった」

 男は少女と自分の顔を、お互いの吐息がかかる距離にまで近づけた。

 「ディープで、ディープでお願い、私の大切な人サンタさん……!」

 二人の唇が急接近する。

 

 ……ゴーン! ……ゴーン! ……ゴーン!

 

 街の時計塔が零時を告げた。

 二人の唇が重なる。

 深く、濃密な、ディープキス。

 舌と舌が絡み合い、二人の愛を確かめる。

 長く、短い、夢の様な時間。

 

 「んちゅ……っは……これで、いいのか?」

 男が唇を離してそう言うと、少女は嬉しそうに笑った。

 「最高の……クリスマスプレゼントだったよ」

 「それはよかった」

 幸福しあわせな時間。しかし、幸福しあわせは長続きしはしない。

 「もう、意識が朦朧としてきた……君に会えるのもあと少しだね……」

 「正直、離れたくなんて無いんだがな」

 「私も……それは同じ……だよぉ……」

 男は少女を強く、強く抱きしめる。

 「私が死ぬまで、こうしてて……ね? 私、君の温もりを……少しで……も長く、感じていたい」

 「……嗚呼」

 強く、強く、ありったけ強く抱きしめる。

 「これ、私から君への……クリスマスプレゼント。あげる……から……私の事……忘れないでね」

 「嗚呼……!」

 少女が差し出したのは美しく、しかし慎ましやかに装飾された、一つのネックレスだった。

 「絶対……だ……よ……? 絶対……忘れ……ない……で……!」

 

 言って、少女は事切れた。

 

 少女の手からネックレスが滑り落ち、降り積もった雪に埋まる。

 「おい、おい、おいっ……!」

 

 少女の体から急速に熱が奪われていく。

 少女はもう、動かない。

 

 「ッ―――――――――!!」

 

 声にならない悲鳴をあげて、男は泣いた。

 涙が枯れる程、泣いた。

 

 少女の亡骸を抱いて。

 

 

 

 

 

 

 その後、男がどうなったかは良く分からない。

 しかし、確実に言える事は世界的犯罪組織クライマーズのアジトが壊滅したと言う事だけだった……。