〜やっちまったものは、しょうがない〜

 

 

T狂月

 季節は、梅雨。じめじめした空気が続いているこの時期。僕は始めて人を殺しました。

 ま、偶然とはいえ、っちまったもんはしょうがないね。悪ぃの一言ですませるさ。悪ぃ。

 

 さて、アレはいつだったか。

 

 今朝降った雨の所為で、湿った空気が漂う路地裏。僕は不良たちに囲まれていた。

 相手は五人、ナイフとかスタンガンとか、そういう物騒なものを振りかざしている。

 対して、僕は金属バット。ごめん、僕圧勝。

 そんなわけで、五人を撲殺したのがつい一時間前。

 や、殺すつもりはなかったんだヨ。いや、本当に。ついうっかりっていうか、手が滑ったっていうか。いやはや、悪いね。まぁ、これも何かの運命って言うかね。大人しく死んでおくがいいよ。

 

 さてはて、いやしかし。そんなこんなで路地裏から逃げ出してきた僕だが。今現在、警察から逃げているこの状況、どうよ。

「いやぁ、まいったまいった。全くもってまいったね。国家の犬風情が、調子に乗りやがりまして、ねぇ。迷惑極まりないね、ほんと」

 僕は一人ごちながら、血にまみれた金属バットを投げ捨てる。

 バットはくるくる回りながら、川原の方に落ちて行き。何かにあたる鈍い音とともに、可愛らしい女の子の悲鳴が聞こえてくる。

 と同時に、目を吊り上げた美少女が突っ込んでくる。どうする、俺!

 

U優乃

「ちょっとアンタ! なにしてくれんのよ。こんなキューティにバット投げつけるなんて! というか血ついてるじゃないの! 別にどうでもいいけど!
あっ、髪についちゃってないかな? ちょっと見てくれるとありがたい。というか見ろー! アンタの所為でしょうがー!」

 なんなんだろうか、この少女は。いきなりこっち来て、金属バットがどうとか。病院にでも行けばいいさ。

「ちょっと、聞いてる?」

「あぁ〜……はい、すみませんでした。とりあえず、ぱっと見血はついてないよ。というかそれ、多分乾いてるし」

 少女が片手に持ったバットを手にとり、べっとりとついた血糊に手を触れる。黒ずんだ血が手についた。カサカサだ。

「……うん、乾いてる乾いてる」

「あ、そう。じゃぁ、それはもういいとして。なによ、これ」

 いや、これとか言われても。

「金属バット?」

「何故に疑問系」

「……萌え要素、だから?」

 

V龍妖

「わけわかんない」

「そりゃ、どうも」

 っと、こんなところで油を売っている場合じゃない。耳を澄ませば、パトカーのサイレン音が近くまで迫っている。

「っと、そろそろ行かなきゃいけないだった。……そうそう、これあげるよ」

 僕は金属バットを少女に投げ渡し、立ち去ろうとするも、少女に片腕を引っ張られ、引き止められた。

 ……ったく、何考えてんだ。いよいよ本気で病院に行ったほうがいい。

「何?」

「いらないわよこんなの。血ぃついてるし」

「なら捨てればいい」

「んじゃ、ていやっ!」

 少女の投げ捨てたバットは放物線を描きながら、川原とは逆のあらぬ方向に飛んで行き……民家の窓ガラスを割り、風鈴を砕いた。

 ……ついでに居間に居た家の主人の頭をも砕いて。

 

「「あ」」

 

二人の声が重なり、次いで、顔を見合わせた。

 

 

 

「「よしっ、逃げよう」」

 

 

 

 

 

 

────Fin